Language
Language
Access
Access
Search
Search
2021.07.09 研究

大学院理工学研究科 佐藤久子教授、博士課程3年生 瀧本和誉さんらの研究論文が、日本化学会の英文雑誌Bulletin of the Chemical Society of JapanのBCSJ賞受賞論文に選ばれました

大学院理工学研究科 佐藤久子教授、博士課程3年生 瀧本和誉さんが、日本大学吉田純准教授らとの共同研究により発表した研究論文が、日本化学会の英文雑誌Bulletin of the Chemical Society of Japan2021年6月号のBCSJ賞受賞論文に選ばれました。

粘土鉱物(ホスト)を用いた有機物やキラル金属錯体(ゲスト)とのハイブリッド材料を制御よく開発する上で、「ゲスト分子が粘土鉱物の層間で、どのように配列しているか」という知見は必要不可欠です。しかし、層内の電荷分布が一様ではない微結晶のモンモリロナイト等の天然粘土鉱物の場合には、層間に取り込まれた低分子化合物の配列構造を明らかにするには大きな困難があります。このような背景のもとで、キラルな金属錯体 ([M(phen)3]2+, phen = 1,10-フェナントロリン、M = Ni,Ru,Feなどの金属イオン) のラセミ体(キラルなΔ, Λ体の等量混合物)をモンモリロナイト に吸着させた試料について、佐藤教授らが独自に開発した固体振動円二色性分光法(VCD)を用いて解析をおこないました。通常はラセミ体ではシグナルは相殺されますが、それには金属イオンを変えることによる工夫から、疑似ラセミ体を用いて振動を検出することを行いました。そもそもこの研究は、1980年代にキラルな金属錯体が粘土鉱物に吸着するときに、飽和吸着量においてラセミ体とエナンチオマー体(キラルなΔ体あるいはΛ体のみ)では顕著な差があることが見出されたことに端を発しています(A.Yamagishi et al., J. Am. Chem. Soc. 1981, 103, 4641.(山岸(現東邦大学)))。それ以来、様々な方法を用いてその原因が探求されてきましたが、今まではっきりとした証拠を得ることはできませんでした。今回、金属錯体に帰属されるVCDシグナルについて、立体選択的なシグナルの増大現象が見出されました。結果の解析から、粘土鉱物層間において分子間に強い相互作用が起きていることが明らかとなり、理論計算とあわせて、キラルな錯体分子の配列モデルを提案しました。粘土鉱物の層間において、キラル分子が2次元的に規則配列することを示した初めての直接的証拠といえます。新しい分析手段の適用により、40年の時を経て初めてその謎を明らかにすることができました。得られた結果は、今後粘土鉱物と低分子複合材料において、低分子の吸着構造の解明の出発点となることが期待されます。
なお、この論文についての画像が、BCSJの2021年6月号の表紙に掲載される予定です。
Stereoselective Enhancement of VCD Signals for Intercalation Compounds of Sodium Montmorillonite and Chiral Metal Complexes
Hisako Sato,* Kazuyoshi Takimoto, Jun Yoshida, and Akihiko Yamagishi
Bull. Chem. Soc. Jpn. 2021, 94, 1731-1736

BCSJアワード記事(Stereoselective Enhancement of VCD Signals for Intercalation Compounds of Sodium Montmorillonite and Chiral Metal Complexes)
BCSJアワード記事(公益社団法人日本化学会のWebサイト)

振動円二色性分光法による粘土鉱物表面のキラル分子認識機構の解明