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2021.02.25 研究

米国物理学協会(AIP)の学術雑誌「AIP Advances」に掲載された 大学院理工学研究科の宮田竜彦講師らの論文が Editor’s pickに選ばれました

大学院理工学研究科 宮田竜彦講師が、当時理学部物理学科4回生であった西田隼佑さん、小笠原佑さんとともにAIP advances(米国物理学協会(AIP))に発表した論文がEditor’s pickに選ばれました。
タンパク質の安定な構造やタンパク質とリガンド(薬剤分子など)の親和性を考える上で重要な量のひとつが溶媒和自由エネルギーと呼ばれるものです。溶媒和自由エネルギーを比較的軽い計算コストで計算できる方法のひとつに積分方程式理論があります(3D-RISM理論(※)など)。積分方程式理論により求まる溶媒和自由エネルギーの精度を向上させる目的で、本研究では溶媒の計算の高精度化を目指しました。溶媒和自由エネルギーを計算する際には溶媒計算の結果が用いられるため、溶媒計算の精度向上は溶媒和自由エネルギーの高精度化へもつながると期待できます。
分子動力学法では比較的正確に動径分布関数を計算できますが、遠距離での計算が苦手です。一方、積分方程式理論は近距離では近似の影響が顕著ですが、遠距離では正しい振る舞いを示す傾向があります。そこで近距離に分子動力学法、遠距離に積分方程式理論という組み合わせ(ハイブリッド)を考えることで、全領域で正確な動径分布関数を計算しました。
今回の成果は、遠距離領域で用いる積分方程式理論に含まれる近似の種類が、結果にほとんど影響しないことを明らかにした点です。積分方程式理論の近似の種類を、数値解の得やすさ(方程式の解きやすさ)という観点で分類すれば、数値解を非常に得にくい近似法(HNC近似)や、逆に数値解を得やすい近似法(KH近似やKGK近似)があります。数値解を得やすい近似法(KH近似やKGK近似)をハイブリッドの遠距離部分の計算に用いた場合、数値解を得にくいが理論的な裏付けの比較的しっかりした近似法(HNC近似)の場合と比べて、どの程度結果が一致するか、というのが本論文における問題意識でした。その結果、遠距離部分でKH近似やKGK近似を用いた結果とHNC近似を用いた結果はほぼ全く差がないということが明らかとなりました。これにより、溶媒計算にハイブリッド法を用いるときには、遠距離部分に数値解を得やすいKH近似やKGK近似を用いても実質的に問題がない、ということが結論できました。今回は比較的単純な溶媒モデルを用いましたが、より複雑で数値的に解きにくい溶媒分子モデルに対しても、数値解を得やすいハイブリッド法を用いることができると期待されます。

Extending correlation functions of molecular dynamics simulation by Kovalenko-Hirata and Kobryn-Gusarov-Kovalenko closures for monatomic Lennard-Jones solvent and its application to a calculation of solvation
Tatsuhiko Miyata, Shunsuke Nishida, Yu Ogasawara,
AIP advances, 11 (2021) 025026
論文はこちら
(※) 3D-RISM理論
積分方程式理論のひとつで、2000年以降、タンパク質などの生体高分子への応用計算が非常に活発に行われるようになった。タンパク質等の溶質を3次元的に扱うのが特徴のひとつで、タンパク質周りの溶媒分布や、タンパク質に結合しやすいリガンドの予測などができる。