Language
Language
Access
Access
Search
Search
2021.02.10 研究

ペプチド中のD-アミノ酸の検出を可能にする 世界初の多次元赤外円二色性分光装置を開発

愛媛大学大学院理工学研究科 佐藤久子教授の研究グループは、日本分光株式会社 小勝負純部長、横浜国立大学大学院工学研究院 川村出准教授、北里大学理学部 吉田純講師との共同で、量子カスケードレーザーを用いたスキャン機能型の多次元赤外円二色性分光装置の開発に成功しました。
アミノ酸は、同一の化学式であってもL体とD体という左右対称な立体化学のものが存在する、キラリティ(※1)という性質を有しています。タンパク質は、通常L体のアミノ酸(L-アミノ酸)が多数結合した生体高分子ですが、そのうちの1つがD体のアミノ酸(D-アミノ酸)に変異した場合に、それがタンパク質の構造や性質に与える影響については、生物物理学・医学分野で非常に重要なテーマになっています。例えば、これはアルツハイマー病の原因物質であるアミロイド線維の生成メカニズムの解明にもつながっています。佐藤教授らは、こうしたキラリティの解析を迅速かつ生体試料のままで行うためには新しい分光学的手段が必要との観点から、今回、“多次元赤外円二色性分光法(※2)”と呼ばれる測定装置を開発しました。従来型の装置では赤外波の波数に対してキラリティを測定していたものに、今回の装置ではさらに時間軸と空間軸を追加することに成功しました。
今後、この顕微スキャン技術を駆使して、従来手法では水溶媒の影響をうけて測定困難だったアミドⅠ,Ⅱ領域(※3)のシグナルを検出することで、種々の試料形態におけるキラリティ解析手法を確立することを目指しています。
なお、本研究の成果は、アメリカ化学会のAnalytical Chemistryに2021年1月29日に掲載されました。

装置の概略図:開発した多次元赤外円二色性分光システムの外観及び概要

Analytical Chemistryの記事はこちら
研究成果はこちら

(※1)キラリティ
右手、左手の鏡像関係を表す対称性はキラリティと呼ばれ、自然界にも多く存在する。キラリティは超分子構造の構築など機能発現のために不可欠な要素となっている。キラリティを有する物質をキラル、有しない物質をアキラルという。
(※2)赤外円二色性分光法
振動領域の左及び右円偏光の差を利用して、紫外可視部に吸収のないキラル物質すべてに適用ができる方法。
(※3)アミドⅠ,Ⅱ領域
1500~1700cm-1 付近の赤外振動領域。アミドⅠはペプチド結合の C=O 伸縮振動、アミドⅡは主に NH 変角振動である。