近況報告「理学部と松山南高校スーパーサイエンスハイスクール」

地球科学科1回(昭和56年)卒業

大学院地球科学専攻1(昭和58)修了   千葉 昇

 


 私は、1977年に理学部地球科学科に1期生として入学した。さらに、81年には大学院理工学研究科に進学、84年には愛媛県県立学校教員として採用になった。2校で数年間勤務したのち、県立博物館へ異動になった。そこでいろいろと勉強させてもらいながら(やりたい放題をしていたとの声もあるが)、10年をすごしたのち、2001年に松山南高校に異動した。松山南高は2002年から第一期3年、2005年から第二期5年、そして2010年からの第三期5年目が終わろうとしている。私は、20103月で異動したので、第三期は計画のみで、実施を内部から見ていない。2002年から2010年まで高校側から見たSSHと愛媛大学とのかかわりを紹介したい。高校側、それも理科の一教師の目線で述べるので、ニュアンスや経緯が多少くいちがうかもしれないことをお許しいただきたい

1年目の冬をむかえたある日、理科主任から「このたび、校長の発案で文部科学省が新規に募集する『スーパーサイエンスハイスクール事業(SSH事業)』に応募することになった」と話があった。「採択されたら、すごい金額の予算がつく」とも言われた。予算は2500万円ということだったが、その額が毎年支給されるのか、それとも3年間の合計なのかわからなかった。いずれにせよ、わからないことだらけだった。文部科学省のホームページを調べると、概算要求の概要が掲載されていた。理工系人材を育成するための研究開発事業であり、学習指導要領に縛られないカリキュラムを設定することができるほか、期間は3年間、全国で20校程度を選ぶということであった。要求予算総額も掲載されており、それを見ると、どうやら先の数字は年間だろうということになった。申請書を作り上げるまでの期間は2カ月程度しかなく、とてもあわただしく準備に取り組んだ。

2002年の春、全国26校のひとつに選ばれた。SSH事業は、文科省でも全く初めての事業であり、見本のない状態からのスタートであった。松山南高校内には校内組織「SSH委員会」をつくり、前年度の理科主任が就任した。この事業は、高校内のアイデアや努力だけでは進展しないのは明らかであった。研究開発には、大学の協力・連携が不可欠であると判断したため、県教育委員会指導主事と校長が愛媛大学へ協力依頼をお願いするため訪問した。理学部が窓口となり、全面的な協力をいただけることになった。これを受けて、学校長とSSH委員長が、柳沢康信理学部長を訪ねることになった。私も同行せよということになり、理学部を訪問した。柳沢学部長からは、積極的に協力すること、特に「SSHの事業は、愛媛大学の事業としてとらえており、全面的に協力する」とのお言葉をいただいた。大学の事業なので謝金も受け取らないとも後にいわれた。言葉だけでなく、その後の事業展開においても、きわめて手厚いサポートであった。SSH事業では、運営指導委員会を設け、ご意見や評価をいただくことになっていた。この委員会にも理学部から5名の先生方に参加していただき、遠山鴻教授には委員長をしていただき、さらには大学側の窓口にもなっていただいた。

SSHが始まると、多くの先生方に授業をしていただいた。マイスナー効果を松山南高校の生徒に見せるために、神森先生は液体窒素容器を持って徒歩で来校された。法令により自家用車では運搬できないための対応だったとお聞きした。あいにくと、徒歩では旅費が支給できない規定であり、旅費なし・謝金なしでそこまでしていただき、われわれはたいへん恐縮した。

理数科生徒40名が参加するはじめての研究室体験では、13研究室の研究室にそれぞれ3日間、3人程度の生徒を受け入れていただき充実した研修を受けることができた。この体験研修でも、参加研究室の募集など、遠山先生には大変お世話になった。進学を希望する分野の研究室へ行った生徒に好評なだけでなく、別の研究室の話を聞いた生徒が「そんな分野があるなら進学してみたい」というような効果もあった。

このように、理学部をはじめとする愛媛大学の先生方には、高大連携・高大接続の面で先進的な取り組みをしていただいた。新しい取り組みに苦労はしたが、わくわくしながら取り組めたのも理学部の先生方のおかげである。柳沢学部長に、「理学部はどうしてあれほどSSHに協力してくださるのですか」と尋ねたことがある。柳沢先生は「理学部が地元へ貢献できるひとつとして、教育面での貢献を選んだ」と言われた。2005年には、理・工・農学部にまたがるスーパーサイエンス特別コース(SSC)が設置され、特色ある入学選抜も導入された。また、SSHに指定された宇和島東高校やスーパーグローバルハイスクール(SGH)に指定された松山東高校も、愛媛大学のお世話になっているのではないだろうか。

SSHって、すごくしんどいハイスクールやろか」。「いや、スーパーすばらしいハイスクールじゃろう」。理学部に感謝。