米国環境保護庁2009 Ozone Layer Protection Award 受賞

米国環境保護庁2009 Ozone Layer Protection Award 受賞


昭和47年 理学部化学科卒業

森 英雄


1970年代にchlorofluorocarbon(CFC)等のハロゲン系ガスが成層圏のオゾン層を破壊することが確認されたことを受け,1987年に国連環境計画のもとでモントリオール議定書が締結されました.モントリオール議定書では一般用途のオゾン層破壊物質が1996年までに段階的に廃止され,転換が困難なものについては,議定書の管理下で段階的に廃止されることが決まりました.Ozone Layer Protection Awardは,米国環境保護庁(U.S. Environment Protection Agency)がオゾン層保護に功績があった世界中の個人,団体,企業に贈る賞で,初回は1990年に創設されました.

私は大塚製薬で,創薬部門,製剤部門,薬事部門をそれぞれ10年余経験しましたが,製品の中にはメプチンエアーという喘息治療薬用の吸入エアゾール剤があり,当時はオゾン層破壊物質CFCを噴射剤として使っていました.そのような関係で,オゾン層保護の問題を扱う日本製薬団体連合会・フロン検討部会の代表を1996年から務め,日本の吸入エアゾール剤の脱CFCを世界に先駆けて達成しました.特に日本では,CFC MDIの廃止及びCFCを使わない吸入剤への転換について,タイムスケジュールを含む方針を設定し,公表したことと,企業と行政との連携の2点がユニークと評価されました.また,国連環境計画UNEPのMedical Technical Options Committee(MTOC)のメンバーとして10年余り貢献したことも評価されました.

授賞式は2009年4月21日にワシントンDC、ポトマック河畔のケネディ・センター(The John F. Kennedy Center for the Performing Arts)で行われました.場所はアメリカを代表する大きな文化施設ですが,授賞式の服装はBusiness Formalで,事前に登録すれば友人を連れてきてもよいという,アメリカらしいフランクな授賞式でした.

私はふとしたことから,製薬業界のお世話や,国連環境計画のMTOCで活躍する場を得ました.余り考えることなくこの仕事を始めましたが,慣れると共に,多様な人々と作業をすることが如何に大切であり,広い世界があることを教えられました.特にMTOCでは地域(地理的,経済的),職種(化学,薬学,製剤学,薬理学,医師,行政等),官民のメンバー30名が集まり,それぞれの視点から如何に無理のないオゾン層破壊物質廃止の実現方法を議論します.英語は得意ではありませんので,激しい議論では置き去りにされます.しかし,異なる考察や意見に耳を傾けてくれる人が多いことも事実です.いつもの仕事場を離れ,違う場所から自分の居る世界を眺めることも大事であると実感しました.また近年,個人や企業に社会貢献が強く求められていますが,専門的な知識と技術で貢献できれば,更に素晴らしいことではないでしょうか.

授賞式の週はスミソニアン博物館群やNational Galleryを繰り返し見て歩きました.2003年に開館したAir and Space の別館でダレス空港に隣接するUdver-Hazy Centerにも足を伸ばしました.スペースシャトル,B29,コンコルドのような巨人機が収まる巨大な建物の中には,人類のあこがれと野望が詰まっています.ここでもアメリカという国の巨大さとプライドを感じます.
以下,参考までに

成層圏オゾン層の破壊
1970年代前半に成層圏オゾン層の破壊が発見され,1974年カリフォルニア大学のRolandとMolinaにより塩素化合物によるオゾン層破壊機構が提唱された.1985年にFarman は南極と北極のオゾンホールの急激な拡大を発表した.成層圏オゾン層の破壊は地表に到達する紫外線を増加させるため,自然環境に様々な影響があると考えられるほか,人体には皮膚がんや結膜炎の増加をもたらす.1987年AndersonらによってClOとO3の濃度の逆相関性が大規模観測によって実証された.同年成層圏オゾン層破壊物質の段階的廃止のためのモントリオール議定書が議決された.
モントリオール議定書により,chlorofluorocarbon(CFC:フロン,フレオン),hydrochlorofluorocabon(HCFC),carbon tetrachloride(CTC),methylbromide等のハロゲン系ガスが段階的に廃止されることとなり,先進国ではCFCは1995年末でほとんどの用途が廃止された.私達の生活の中でもエアコンや冷蔵庫の冷媒が代替フロンやノンフロンになり,スプレーの噴射剤がdimethyl etherやLPGなどの石油系ガスになった.一方,喘息治療に使われる定量噴霧式吸入エアゾール剤(Metered-dose Inhaler:MDI)では,非常に少ない量(数10〜100 μL)を正確に噴霧するための技術上の困難さから,1996年以降も不可欠用途として,国連環境計画の管理下でCFCの使用が許されている.
CFCを含まない吸入剤にはhydrofluorocarbon(HFC:代替フロン)を噴射剤として使用するMDI,及び噴射剤を使わず直接粉末を吸入する吸入粉末剤(Dry Powder Inhaler:DPI)がある.いずれにしても,製剤の改良には数10億円以上の経費と10年前後の開発期間を要した.新規の製剤であれば100億円単位の開発費用が必要とされた.

Ozone Layer Protection Awardの詳細は以下に; http://www.epa.gov/ozone/awards/