IEC活動

IEC活動


昭和44年化学卒業(文理17回)

乾 泰夫


国際標準や国際標準化という言葉を聞かれたことがあると思います。ISO 9000(品質マネジメントシステム)やISO 14000(環境マネジメントシステム)が有名ですが、電気関係にはIECという国際標準があります。「世界一になる理由は何があるんでしょうか? 2位じゃ駄目なんでしょうか?」という言葉を発した大臣がいましたが、通常、世界一になると国際標準になり易いというメリットがあります。企業にとって国際標準を制することは国際競争力をつける上で欠くことができない条件となるため、世界の有力企業が力を入れている分野です。

IEC(国際電気標準会議)は1906年に設立され、電気製品などの安全性向上のためのIEC規格を作成しています。私は、1987年から電気製品、部品、材料の火災危険性を評価する試験方法に関する国内技術委員会に属してIEC活動に携わっています。1990年にプラスチック材料の燃焼試験方法を作成する委員会が開かれたので、その時から国際会議に出席するようになり、28回、18か国での会議に出席しました。燃焼試験方法はプラスチックの試験片にバーナの炎を当てて燃え方を評価するものですが、炎の揺らぎなどによって試験結果が大きくばらつくので、試験に携わる人間にとって悩ましいものでした。バーナでガスと空気を混合して炎を作りますが、当初は炎の高さだけしか規定されておらず、この炎が瞳の色が黒い我々にはよく見えていないことに気づき、問題点を指摘しました。ちなみに瞳の青い人種がサングラスをかけるのは、目の光線透過率が良過ぎるために外の光が眩しく感じるためです。それで炎の高さに頼らない、ガスと空気の流量を制御するバーナを提案しました。これが国際審議の場でイヌイバーナと呼ばれたので、社内でもそのように喧伝してくれる人がいて、お蔭でローテーションされないで長くこの仕事に携わることになりました。いずれにしても、創意工夫をするということは楽しいものです。

社外活動が多いので、「会社に居なくてもいいが、会社になくてはならない人になれ」などと嘯きながら仕事をしていましたが、2時間前に出社して、他の人が出て来る頃には外に出て、定刻後に帰社して再び社内の仕事をこなさなければ続けられない仕事です。欧米ですと、国際規格をいくつ作成したというようなことが評価点に加算されるようですが、国内では重要性は理解しても適正に評価するシステムがないところが泣きどころです。

2009年に会社を退職したのを機に、国内のIEC活動推進会議から議長賞をいただきましたが、2010年にはIECからIEC1906賞という栄誉を与えられました。これは2004年に設けられた賞で、国際規格を作成する上で個人として貢献した者に与えられるものです。この時に日本から20名、同じ技術委員会ではオランダのDSM社の人間と私の2名が表彰されました。日本人は、英語のジョークなどにはついて行けないので、言葉ではなく出来るだけデータで説得しようと努めていますが、長くやっていると信頼もされるようになって、少しは日本のために貢献できているかなと思って、この仕事を続けています。