学長のひとこと

愛媛大学のビジュアル・アイデンティティについて


愛媛大学長 柳澤 康信


2011年3月18日登録

 昨年9月4日,理学同窓会総会において「愛媛大学の近況あれこれ」と題して,教育,研究,社会連携などの取組みに関して1時間あまり話をする機会がありました。そのあとの懇親会で,「このごろ愛媛大学はよく頑張っているね」とか「新聞やテレビで愛媛大学の活躍を知る機会が多くてうれしい」などお褒めの声を頂戴しました。このような声はわれわれ現役の教職員にとってうれしい限りであり,力強い励ましになります。

 さて,この小稿の表題をビジュアル・アイデンティティ (visual identity)としましたが,皆さんはこの言葉をご存知でしょうか。この言葉は「企業や商品のイメージを統一して,書体やマークなど視覚的なものによって,そのイメージを表現すること」という意味で,具体的にはブランドマーク,ロゴタイプ,マスコットキャラクターなどを指します。企業がこれらを重視するのは当然のことですが,近頃ではイメージアップを図るために国公私を問わず多くの大学が制定するようになっています。

 愛媛大学でも遅蒔きながら,平成21年の開学60周年を記念して制定することになりました。ネットを通じて公募したところ 708作品もの応募があり,その中から私が委員長を務める選考委員会が選んだのが文中の図です。 ブランドマークは円と「e」を組み合わせたシンプルな形ですが,「愛媛の知の拠点(ドット・エヒメ)」となる決意を込めています。円は太陽,「e」は躍動する姿,そして全体の形はすこやかに伸びていく新芽の象徴です。また,色彩は愛媛みかんをイメージした黄色で,明朗さ・快活さを表しています。

 マスコットキャラクターは,「e」と愛媛みかんを組み合わせたものです。これもシンプルな形ですが,おっとりとした愛媛の気風を映した穏やかな表情が持ち味で,「遠くをみつめる澄んだまなざしと穏やかな表情は,純粋で素朴な若者の豊かな将来性を示している」という意味づけをしています。愛称は「えみか」。これも愛媛とみかんの組み合わせで,ほほえみを浮かべたキャラクターに似つかわしい名前になっています。

 ブランドマークの制作者は兵庫県に在住のグラフィックデザイナー福原基和さん,マスコットキャラクターのほうは長野県の主婦,宮川さやかさん。福原さんには平成21年11月11日に行った開学60周年記念式典に出席していただいて,そこで表彰状と副賞を差し上げました。驚いたのは,本学の沿岸環境科学研究センターと地球深部ダイナミクス研究センターの馴染みのブランドマークが彼の作品だったこと。これは沿岸環境科学研究センター長の武岡さんがたまたま福原さんの知り合いであったことによる由。これらの縁で福原さんにはその後,新調した身分証明書,封筒,名刺,それからポロシャツなどの大学グッズのデザインまでお願いしています。

 マスコットキャラクター「えみか」はこの1年間で学生・教職員の間でかなり認知されるようになり,人気も上がっているようです。昨年4月,城北キャンパス正門の北側に南加記念ホール,校友会館,愛大ショップの3つの建物を整備しましたが,そのうち愛大ショップの名称は「えみか」としました。このショップでは,附属農場産の安心米や特別支援学校の生徒が制作した木工品,地元の酒造会社の協力を得て作った特別純米酒「媛の酒」,ブランドマークを模したロールケーキなどのオリジナル商品を販売しています。そのショップの前に「えみか人形」を設置しました。この人形は1時間に1回,体を左右に回転しながら学歌を演奏し,夜間には内側から光るようになっています。本学は「地域に開かれた大学」を目指していますが,「えみか人形」もそのための雰囲気づくりに一役買っています。

 各大学はブランドイメージを向上させるために,あれやこれやの手を打っています。しかし,「大学ブランド」はなかなかの曲者です。日本では,ブランドイメージは創立の古さや伝統によって固定化しており,容易に変化しません。もちろん,ブランドイメージを向上させるためには,教育・研究など大学の本来的な使命を充実させることが一番です。しかし,これまで国立大学が実力の割に十分な評価を得てこなかったのも事実です。その理由として,宣伝不足が挙げられます。ビジュアル・アイデンティティの制定などイメージアップのための総合的な広報戦略が今日求められていると感じています。