愛媛大学理学部で過ごした日々と自然災害

愛媛大学理学部で過ごした日々と自然災害

森 寛志


2022年2月登録
 私は1994年4月に理学部地球科学科に赴任して以来26年間という長い時間を充実して楽しく過ごし、こうして無事に定年を迎えられたのはこれまでに理学部で出会い、共に過ごした多くの皆様のお陰だと感謝しております。本当にありがとうございました。
 理学部ですごした26年間を振り返るにあたって、私が地球科学に関わっていたこともあり、この間に起こった自然災害、中でも地震被害を目の当たりにした時に感じたことや考えたことを述べていきたいと思います。
 私が前任地の東京から松山に赴任した次の年、1995年1月17日に阪神淡路大震災が発生しました。地震発生は早朝午前5時46分で、私が当時住んでいた東温市にある愛大横河原宿舎の3階でも地震の揺れに驚いて目を覚ましたのを覚えています。神戸という大勢の人が暮らす大都市を最大震度7の大地震が襲ったのは衝撃でした。阪神高速3号神戸線の橋脚が横倒しになった光景がテレビに映し出され、この地震の揺れがいかにすさまじいものだったかを物語っていました。神戸市長田区などの住宅密集地で発生した大規模な火災の被害も甚大でした。大都市でひとたび大地震が発生すると6000名を超えるような大勢の尊い命が一瞬で失われることを学びました。地震の被害の大きかった場所は、地震断層に沿った比較的狭い範囲に集中して長く伸びており、やはり神戸市の海岸に沿った埋め立て地などのいわゆる地盤の弱い場所でより被害が大きかったようです。これは地表に暮らす我々にとって地震の揺れの大きさを決める要因として地震そのものの規模以上に揺れに対する地盤の強弱がいかに重要であるかを改めて印象付けることになりました。
 2001年3月24日の15時28分に芸予地震が発生しました。震源地は安芸灘で、震源の深さは50kmでした。松山市の震度は、震度5強と記録されています。この日は土曜日で、私は東温市の自宅の庭にいましたが、まわりの樹木や家屋がユサユサと揺れ始め、とても驚きました。私がこれまでに自身で直接経験した地震の揺れの中では最大のものでした。翌週の月曜日に大学に向かうと研究室のロッカーの扉が皆半開きになっており、まるで泥棒に荒らされたようになっていたのには驚きました。幸い家具が倒れたり、棚の中身が散乱したりというようなことはありませんでした。しかし、理学部本館の壁面のあちこちにX字のひび割れが生じており、震度5強の揺れがあったことが読み取れました。私の自宅は東温市にあるため、大学のある松山市より揺れが小さかったようです。もし理学部の建物内にいたら、かなり驚いて机の下に潜り込んでいたかもしれません。
 2011年3月11日、東日本大震災が発生しました。地震そのものは宮城県牡鹿半島の東南東沖130km(深さ24 km)を震源とする東北地方太平洋沖地震で、地震の規模を表すモーメントマグニチュードは9.0で、日本周辺で起こった観測史上最大の地震でした。この地震による巨大津波とこれに伴う福島第一原子力発電所事故による未曾有の災害が発生しました。1000年に1度という規模の大地震と大津波が私自身の生きている同時代に起きたというのはまさに衝撃的でした。太平洋から押し寄せた大きな水の塊が沿岸の町や人々の暮らしを次々に飲み込んでいく様子を写した映像は今でも私の脳裏に深く刻み込まれ、一生忘れることはないと思います。最も深刻な事態は、福島第一原子力発電所事故で、事故の後始末にはあと何十年かかるのでしょうか。原子力を含めたエネルギー問題や地球温暖化問題は、人類の抱えた難題です。21世紀も20年が過ぎようとしていますが、人類はこの問題にどのように立ち向かっていくのでしょうか。大学を定年になる年齢となった私は、これからの若い人たちに期待するしかないのが寂しい気持ちです。
 2016年4月に熊本地震が発生しました。この地震の特徴は、震度7を観測する地震が4月14日夜および4月16日未明に発生したほか、最大震度が6強の地震が2回、6弱の地震が3回も発生したことです。大きな揺れを伴う大地震がこれほど立て続けに起こったことはこれまでにないことです。私も訪れたことのある熊本城が甚大な被害を受け、無残な姿がテレビに映し出された際には本当に悲しい気持ちになりました。
 2018年9月6日に北海道胆振東部地震が発生しました。この地震の最大深度は7で北海道では初めて記録されたそうです。震源に近い厚真町ではおびただしい数の土砂崩れが発生し、その後グーグルアースを使って観察したその様子には驚かされました。
 ここまで、私の記憶に強く残ったいくつかの地震災害を振り返ってきましたが、新しい地震災害が起こるたびに「これまでに私たちが経験したことのない」とか「予想しなかった」という言葉がいつも使われてきたように思います。これは地球と人間の活動のタイムスケールが何桁も異なるためであり、まさに自然なことだと思います。自然災害、特に地震災害はいつどこで発生するのか予測することができません。しかし、災害の発生に備えて常々準備しておけば、被害を最小限に抑えることができると思います。物質的な備えだけでなく、それ以上に心の備えが重要だと思います。これからも悲惨な自然災害は繰り返し発生するのかもしれませんが、その被害が少しでも軽く済めばと願っています。