退職に関して思うこと

定年退職を迎えて

 田辺 信介


2017年7月18日登録
 東京出張のため、本年3月の理学部教授会において定年退職のご挨拶とお礼を申し上げる機会を逸してしまいましたこと、お詫び申し上げます。一方、今回、理学部同窓会報で、定年を迎えたメッセージ執筆の機会を与えていただきましたことに感謝申し上げます。  私が愛媛大学と関係を持ったのは、1969年のことで、本学を受験・合格し、その年の春に初めて愛媛の地を踏みました。その後松山での生活が始まり、6年間の学生時代、40年間の教職員時代、合計46年間すなわち約半世紀を松山の地でそして愛媛大学でお世話になりました。この間の3分の2は農学部で、3分の1は理学部およびCMES(沿岸環境科学研究センター)で教鞭を執らせていただきました。本学在職中にはいろんなことがありましたが、その中で私の学究人生に大きな影響を及ぼした出来事を3つほど紹介したいと思います。 最初の出来事は、私の人生を大きく変えた恩師の立川 涼先生との出会いです。立川先生との最初の接点は、3年生の時に農学部で先生の講義を受けたことでした。米国での留学を終え帰国されて間もない先生は、留学中に経験した様々なことを当時はまだ珍しいスライドプロジェクターを使ってわかり易く説明してくれました。特に印象に残っているのは、強烈な体制批判で他の教授にはない個性的な内容の授業にすっかり魅了され、立川先生の授業だけは教室の最前列に座り、一度も欠席せずに受講したことを覚えています。その後、立川先生の研究室に卒論生・修論生として分属することになりました。当時の私は麻雀狂いの不真面目学生だったのですが、そんな私に興味を持ち、敬遠することなく指導してくれた理由は、「麻雀など賭事に対する田辺の集中力は尋常ではない、このエネルギーを研究に転化できれば、モノになるかもしれない」と思われたようです。とにかく立川先生はヒトや物事を見る目が通例とは違う、すなわち大変人であったことが私にとっては幸いしました。いずれにしても、立川先生との出会いがなければ、今日の私はあり得なかった、立川先生の存在と接点は、私の人生を決定づけた最大の出来事でした。  二つ目の出来事は、1995年に立川先生が高知大学に学長として転任され、私が立川研究室を引き継いだことです。この時、学内外の教職員や研究室の諸先輩方は、「これで立川研究室は終わった、早晩潰れるだろう」と思っていたようで、そうした声が私の耳にたくさん聞こえてきました。これらの風評は私の反骨心に火をつけ、以降Never Sleep, Study Hard をモットーに1年365日のうち363日は大学に出勤する、土日祝祭日昼夜を厭わず研究に没頭するといったようなとんでもない生活が始まりました。その効果でしょうか、これまでに300名を超える博士・修士・学士を社会へ輩出できたことに加え、3500件をこえる著書・原著論文・総説・学会発表そして報告書などの業績を残すことができました。こうした学究活動や40年以上継続した土曜日のゼミなどは、私のわがままを貫いた結果であり、研究室の学生や教職員そしてその家族に多大な迷惑をかけたことは疑いありません。この場を借りて、深くお詫び申し上げます。いずれにしても、今日まで伝統ある立川研究室を潰さなかったことに安堵しています。  さて3つ目の出来事は、1999年にCMESが設立され、私の研究室が農学部から理学部のキャンパスに移動したことです。この移動は私にとって大きな賭けでした。当時CMESには建物がなく、また移動のための好条件が準備されているわけでもありませんでした。したがって、大いに迷い何度も躊躇したのですが、最終的には移動を決断しました。この決断はその後の私の学究人生を大きく好転させました。21世紀COEやグローバルCOE、そして共同利用・共同研究拠点形成事業など文部科学省のビッグプロジェクトに採択されたこと、また基盤Sや基盤Aなどの大型科研費の獲得に成功したことに加え、たくさんの学生や教職員が国際賞や学会賞を受賞しました。こうした成果は、理学部の先生方、特に化学科と生物学科の先生方の協力と支援があったからこそ成しえたものであり、この場を借りて厚く御礼申し上げます。私の研究室は、今後若いスタッフが引き継ぎますが、どうぞ変わらぬご指導とご鞭撻を賜りますようお願い申し上げます。 定年退職にあたり、今般これまでの私の教育研究活動を総括した退職記念業績集とそのCDを作成しました。このCDには、私の略歴や職歴、研究教育業績、そして原著論文・総説等のpdfが網羅されており、総ページ数は5000ページ超あります。業績集の入手を希望される方は、メール(shinsuke@agr.ehime-u.ac.jp)にてお知らせ下さればお届けします。  最後に今後の私の去就ですが、学長の要請もあり、特別栄誉教授としてまたCMESのセンター長としてしばらく留任し、愛媛大学そして理学部の発展に尽力する所存です。学内で私を見かけることもあろうかと思いますが、どうぞ気軽に声をかけていただいて、引き続きご指導とご鞭撻を賜れば幸いです。末筆になりましたが、理学部の発展ならびに皆様方の益々のご活躍とご健勝を祈念しております。