松山で過ごした18年

松山で過ごした18年


小野 昇



 平成2年4月から、18年の間、愛媛大学理学部で有機化学の教育・研究に従事し、平成20年3月31日に無事に定年で退職しました。学生、教員、職員、近所の飲食店で会った人達の暖かさに助けられて、楽しい18年が送れたことを感謝しています。この18年での一番の思い出は、非常に多くの学生を指導して、社会に送り出したことです。有機系の先生と学生とが、3月9日に最終講義と記念の同窓会を開催してくれましたが、在校生も含めると150人を超す人が集まって、私の定年を祝ってくれました。そのとき、愛媛大学で18年を過ごせた幸せを実感しました。

 愛媛大学に赴任するまでは、研究が中心の生活でしたが、松山に来て以後は、この町ののんびりした空気にそまり、多くの学生とのんびりと研究を楽しみました。しかし、この環境の中で、ここでしかできない研究をしようと秘めた野望ももっていました。私の専門は有機合成です。有機合成が対象とする研究課題は多彩です。例えば、医薬品の製造では、生理活性物質を見つけ、その候補の分子を効率よく合成するためには、有機合成が重要です。私は松山に来るまでは、このような有機合成の手法の開発研究をしていました。松山では、有機分子の電子機能の開発研究をしました。通常は絶縁体の有機分子が半導体や導電体に変化することにロマンを感じました。定年間際になって、真空を使わないでフタロシアニンのような顔料の薄膜を塗布で作成することに成功しました。この技術を応用すると大面積の有機薄膜太陽電池の製造とか有機EL素子のインクジェットを利用した作成などが可能になります。実際、これらの試験的な試みは、三菱化学の研究所で成功していますが、これらが商品化されるころには、きっと私はこの世にいないでしょう。幸いにも、もう少しだけこの研究に関わることができることになりましたので、時々松山に来ます。そして、道後の湯につかったあと鰺の刺身とビールを楽しむ予定です。

 京都に住んでいますので、卒業生の皆さん京都に来る機会がありましたら訪ねて来てください。しばらくは、大学にいたときのメールアドレスで連絡できます。



2008年4月21日登録